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「最後にひとつだけ、お願い聞いてくれる?」
彼が優しい声で言った、“最後”という言葉に、心を潰されそうになる。
「車、乗って帰ってくれないかな? 長時間の運転になるから、申し訳ないんだけど。
東京に戻ったら、どこかに乗り捨てていいから」
なんであなたは、今そんなことを言うの。
なんであなたは、私なんかの帰りを心配するの。
あなたの人生を狂わせた張本人なのに。
返事の代わりに、手を差し出した。
その手の平に、車のキーが落とされる。
それを握り締めたのが早かったか。
それとも、彼が私を抱き寄せた方のが早かったのか。
息が苦しくなるほどの抱擁に、胸が張り裂けそうに苦しくなる。
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