1 近鉄奈良線

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男女が頬をくっ付けている。 左側は軽く微笑んでいるカセ子。 血の気のあるその顔は、当たり前だが、目の前の遺体より、ベッピン度は増していた。 しかし、目の下のくまや、頬のこけかたなど何か病的な陰りも伺えた。 そして右側の微笑んでいる20代のヤサ男。 そっちに目をやった瞬間、山神は 「え、宇田字?」 と叫んだ。 「そう。これ、昔、同僚の宇田字刑事ですわ」 相田はどや顔だった。 「ちゅーことは、このガイシャは宇田字の彼女かい」 「そーなるんちゃいますか」 「うーん、宇田字のねぇ」 山神は左手で、無精髭の顎を すりすりし、唸った。 写真の男、宇田字洋介(29歳) は以前、かわち花園署員だったが、3年前、転勤になり、現在は隣の東成手警察署の 刑事第3課(盗犯係)に所属している。 階級は巡査部長である。 「相田部長刑事、ガイシャが付けていた日記があったんですが、見て貰えますか?」 古村刑事が隣の部屋から、二人のもとへ、1冊の大学ノートを持って来た。 「おう」 相田が取る前に、山神が 「どれどれ」 と、素早くそれを横取りした。 そして椅子に腰掛け、メガネを額に上げ、ノートをめくり始めた。 日付を見ると、そう昔から書かれたものではなく、ちょうど、1年ほど前から始まっていた。
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