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「(…そんなに引いた…!?)」
表情を隠され、ついにそんなにも大きなため息を目の前で吐くほど呆れられたのか、と思うと不安がモクモクとした煙のように頭の中を立ちこめる。
木手くん、と小さく呼びかけると、相手は長い指の隙間からじっとこちらに目線をくれた。そしてゆっくりと手を下ろすと、顔を逸らすように俯く。
「(……?あれ…)」
秋本の中の木手は、基本的に表情が無い。きっとそれは、第三者からの印象と変わらないだろう。そんな男の笑った顔や焦った顔を今日一日で見ることができたのは、ラッキーだったのかもしれない。
そして今、また新しい表情を見ているような気がするのだ。伏し目がちで睫毛を下に向かせたその目は、いつも憂いを感じさせる。けれど今は……輪をかけて切なそうな表情に見えた。
ほとんど動いていた記憶のない眉毛の端が少し下がり、微かに唇を噛んでいる。まるで、しゅんとした子供のような。気のせいか、僅かではあるが頬が赤らんでるようにも見えた。
――こんな顔も、するのか。
単純な驚きと、新たな表情が見れた喜びのようなよく分からない感情と、人間らしい一面に対する愛しさのようなものが込み上げる。伏せたまつげを見つめていると、それを中断するように木手はぐるりと勢い良く向き直った。
「……驚かせないでください」
「え?」
「ほんとに、びっくりしました」
「………」
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