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「じゃあ、俺そろそろ……」
カップが空になった頃、秋本は傍のカバンに手を伸ばした。
時計を見れば、22時を回っている。
電車は十分にあるが、ただでさえ予定外の訪問なのに長居するのは悪いと思い、膝を立てた。
すると同時に、木手も立ち上がる。
「駅まで送ります。暗いですし」
「いや大丈夫だよ。俺男だし暗くても…」
「上着とってきますね」
秋本の言葉など聞こえていないかのように、木手は隣の部屋に入っていった。そんな背中を見て、秋本は無意識に唇を尖らせる。
木手という人間は時折人の話を聞かない傾向にあるな、と秋本は思った。学校で話している時、数回質問を無視されたことは記憶に新しい。わざとやっているのかマイペースなのかは分からないが、秋本は妙な仲間意識を感じた。“あまり友達がいなさそうだ”と。
「すいません秋本さん、友達から着信入ってたのでちょっと良いですか?すぐ終わらせるので」
少し失礼なことを考えていたところで突然木手が部屋からひょこっと顔を出した。後ろめたい思いからブンブンと首を縦に降ると、木手は再び隣の部屋に姿を消す。
「(…友達…いるんだ)」
そりゃあ、友人の一人や二人誰だっているだろう。けれど考えていた内容のせいで思わず笑ってしまった。
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