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いや、秋本にしてみれば、誰かと話すつもりなんてさらさら無かった。 とりあえず講義に出席し、与えられた課題をこなして単位を取得する。退学を免れる為の最低限のことだけするつもりで来たのだ。 元々少ない友人との連絡は断っていたし、講師や教授とも仲良くなかった。というより、元からそんなに社交的な人間ではない。 だから講義が終わったと同時に講堂を出て、人通りの少ないこの果樹園横を早歩きで横切っていたのだった。 昼に購入した、冷めたコーヒーを処分するのも忘れて。 早く帰りたいという思いだけで体を動かし、眩しい周りを見たくなくてずっと下を向き、前方なんてろくに見ず。 そんな歩き方をしている人間が‘何か’に衝突するなんてことは、不思議な話でも何でも無かった。
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