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「どうぞ」 顔を上げると壁の時計が目に入り、それは確かに午前7時を指していた。 木手からコーヒーカップを受け取るのはほんの数十分前にも経験した気がするのに、現実は10時間近く経っているらしい。 「木手くん、俺は昨日……」 「帰ろうとして、俺が電話終わってこの部屋に戻ってきたら布団の上で寝てたので…そのままベッドに入って貰いました」 「……」 「一応起こしたんですけど」 「………」 秋本は、心底呆れた。もちろん自分に対してである。 どれだけ寝れば気が済むのか。どれだけ木手の手を煩わせるのか。どれだけ謝らなければならないのか。 しかし一方で、こんなに寝ている自分が不思議でもあった。 「…き、木手くん…言い訳と思ってくれていいから聞いて欲しいんだけど」 「なんですか」 「俺は普段からよく飲んでるから、確かにカフェインには鈍感な方なんだけど……そんなに寝る方じゃないんだ…」 「………へえ?」 感情を表に出さない年下の男の口から、すごく馬鹿にしたような、疑っているような声が発せられた気がした。けれど、確かに昨日今日の自分の行動を見れば、秋本の発言に説得力がないのは明らかだ。仕方なく、純粋な心で自分の話を聞く気は無さそうな木手の態度はスルーして、言葉を続ける。 「ほんとに、普段は夜寝付けなくて……5時間寝れば良い方でさ、それでいつも夕方辺りに眠くなって……」 「だから、昨日描いてる途中に寝たんですね」 「う、うん…でも、普段は夕方に寝たら夜はまた眠れなくなって……」 「9時間くらい寝てましたけど」 「だっ、だから!自分でもびっくりしてるんだよ!!」 言ってることは、すべて本当のことだった。 引きこもり生活を続けていたときは、眠れるときに眠れるだけ眠っていた。朝に寝て昼前に起きてまた夕方眠る。そして数時間後に目覚め、夜は眠れないからずっと起きている。 浅い睡眠を分けて取ることしか出来なかったのだ。 なのに。
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