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呟くような木手の言葉に、秋本は大きく反応した。 立ち上がりそうになりながら脚の長い椅子に座り直し、無自覚か反射か、身を乗り出すように木手に迫る。 人としばらく接していなかったせいか、普段は少し遠慮がちな印象を与えていた秋本の瞳はビー玉のように丸くなり、そして色がきらりと変わった。 「そう!水族館!俺すごく好きでさ……!ていうか図鑑とか見るのが好きだったんだよ子供の時!昔は親が忙しくてあんまり連れていってもらえなかったんだけど、高校くらいからは学校帰りとかによく行ってたんだよね…………あ゙」 自分は決して友人が多いとは言えない、物静かな目立たないタイプであると、秋本は自認していた。物を言うのは苦手で、言葉を発する時に頭と口がうまく働かなくて口篭ることなど日常茶飯事だ。 もちろんそれは知り合って間もない木手と話す時も同様で、昨日にしても先日の初対面の日にしても、やはり言葉の先頭には僅かながら沈黙が伴っていた。 ところがそんな口から、興奮、と言ったら大袈裟かもしれないが、滞りなくハキハキとした声が流れている。 急激に上がりすぎたテンションが自分でも妙に感じて、歯止めを掛けるように途中で言葉を飲み込んだが、目の前でその変わりっぷりを見た木手の方がそれに驚いたらしい。
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