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「あっ………!」
何かと衝突し、ようやく顔をあげた。というより、体がバランスを崩して上半身が反れた。
手に持っていた紙コップは宙を舞い、体は衝突した‘何か’を弾き倒したあと、顔面から盛大に地面に叩きつけられる。
いたい。これも、久しぶりに感じた感覚だ。
土と草の匂いが鼻をかすめ、咄嗟にギュッと瞑った目をゆっくりと開いた。
こんな転び方をするのは、きっと小学校の低学年以来だ。恥ずかしい。
そんなことを思いながら秋本はゆっくりと体を起こした。
「大丈夫ですか?」
「うわーーっっ!?」
明るい光と同時に秋本の視界に飛び込んできたのは、表情の固い男の顔だった。気遣いの言葉をかけてくれたにも関わらず、驚きのあまり叫んでしまった口を急いで手で覆う。
男は秋本の声にほんの一瞬だけ顔を歪めたものの、すぐ無表情に戻り、秋本の肩に触れた。
「…泥だらけですよ」
そう言って数度、肩を撫でる。優しく、優しく。
人に触れられるのも、久しぶりだった。
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