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湯気の立ち込める湯船に浸かり、秋本はふぅ、と小さく息を吐いた。 昨日の夕方から、木手が授業に向かった先ほど朝の10時まで。丸一日近く誰かと過ごしたのは久しぶりだった。 まぁ、そのうちの半分は眠ってしまっていたのだが。 「(……木手くん、)」 湯気に浮かべるようにぼんやりと、ついさっきまで一緒にいた男の顔を思い出す。真っ先に浮かぶのはやはり無愛想な顔で、落ち着いて考えると、よくもまあ知り合ったばかりの決して高いとは言えない木手とこんなに長い時間共に過ごせたなと、感心してしまった。 そして驚くべきは、自分の行動である。 記憶を巻き戻してみると、自分はあまりに落ち着きすぎている、と秋本は思った。もちろん態度ではなく、気持ちの問題だ。 昔からよく人見知りをする方で、人といるのは苦手だと感じて生きてきた。そのせいで交友関係が広まることはなかったが、それで良いと思っていたのだ。 長い時間をかけてできた友人にも、自分の話は殆どしない。 そんな自分がこのたった十数時間であんなに人と話せるとは思わなかった。
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