512人が本棚に入れています
本棚に追加
そこまで考えて、秋本はじっと水面を睨むように見つめた。いや、自然とそういう表情になってしまった、と言った方が適切かもしれない。
心の一部に穴を開けられたような感じがした。ただ自分の脳内で考えただけなのに、木手の過ごしたこの十数時間が無かったものだと考えると、なんとも言い難い空虚感に襲われる。
しかしその空虚感は、秋本が非常によく知っている感覚だった。
「(……あぁ、そうか)」
たったの十数時間で、木手は元々ぽっかりと空いていた自分の心の穴を埋めてくれたのだ。穴を開けられるんじゃない、それを埋めたものが消えてしまうのだ。だからだ。
せっかく埋められた穴がまた空くのが怖くて、また空虚感に襲われるのが怖くて。だから、それを脳内で勝手にシミュレーションしてしまう。
けれど、その理由が分からない。
顔と名前以外ほとんど知らない相手に、こんな短時間で自分は心を埋めららたというのか。
人との接触を絶っている間、自分はこんなにも誰かと距離を縮めることを望んでいたのだろうか。
「…そんなわけ……あるか…」
小さく呟いて、立ち上がる。少しだけくらりとしたが、いつものことだ。シャワーのレバーを捻り、戒めるように頭から強めのそれを浴びた。
最初のコメントを投稿しよう!