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人は一人になると思い出したくないことを思い出したり、自分にとって辛いことを考える。と、いつか誰かが言っていた。 そんな言葉を思い出したのは、“あの声”を聞いた瞬間、そして“あいつ”を思い出した瞬間、空から地に落とされたような感じがしたからだ。 「(…なんで、なんでこんな声が聞こえるんだ…)」 手の震えが止まらない。吐きそうだ。 急いで髪に絡まる泡を流して風呂を飛び出し、バスタオルにくるまる様にしてしゃがみこむ。 昨日と同じく、突然“あいつ”の声が聞こえて“あいつ”の面影が脳裏にちらついた。それだけで、秋本の心臓は動くのが速すぎていっぱいいっぱいになる。 思い出さないように蓋をして鎖をかけて、重石まで置いて塞いだ記憶が、頭の片隅に生き始めていた。 余計なことを考えないように、それだけでなく何も考えないようにして、感情すらも忘れて人と接することも絶っていたつい先日までは、これで大丈夫だ、もう思い出したりしない、と思っていたのに。 「………シロ…」 懐かしい顔が、頭を埋める。 タガが外れたように涙が出てきた。
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