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三黒明太は、直立不動の姿勢で、脂汗をかいていた。
そこは狭い部屋で、目の前には、粗末な事務デスクに座っている中年男性がいる。
男性は足と腕を組み、さっきから怒鳴りっぱなしだ。
この地域に3店舗あるだけの、あまり大きくない電気量販店の支店長室である。
男性は支店長の小菅 頼三。
もう、20分ほど説教を続けている。
「…ということだよ。
アルバイトだからって、こういう間違いはあり得ないだろう。
明日から、来なくていいから。
今までのバイト代は振り込んでおく。」
明太は力なく、
「はい、すみません。
お世話になりました。」
と、言うと、部屋を出た。
明太は、街の中規模電器店に、式野 春と2人で、アルバイトに入っていた。
2人とも入って1週間目である。
明太は、すでに他のアルバイトを2件、クビになってここにいるのだが、それも今日までで、通算3件ともクビになったわけだ。
彼は、まだ、今日の就業時間があるので、店舗の方に戻ってきた。
春は、接客中だった。
若い男が、デジカメの説明を春から受けている。
爽やかな雰囲気の、好青年である。
明太は一昨日もその男が来ていたのを覚えている。
明太には、男が春と話したいがために、通っているようにも、見える。
男は、安価なデジカメを、購入して帰った。本当にデジカメを買おうと数日かけて選んでいたのかもしれない。
春は、明太の抱いているだろう懐疑には気がついている。
しかし、客が、特定の女性店員の顔を見たくて来るのは、密かによくあることだ。
それだけでは、気にする必要はないはずだが、明太の顔には、面白くないと書いてある。
それもこれも、春は、初夏にイメージチェンジに成功して以来、急激にもてだしたという背景があるからだ。
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