0人が本棚に入れています
本棚に追加
高校への道のりには、よく公園を通る。ここらどころか、全国区でも桜で有名な場所だ
俺がここを通るのは、桜並木が好きだから……ではない。ある生徒がここを通学路にしているからだ
桜満開はもう数日前のことで、今は桜の花びらが散っていく
俺の前を歩く女性は、風に運ばれる桜の花びらを、ときどき立ち止まっては眺めている
まただ。また立ち止まって……ゆっくりと首を伸ばす。目を瞑り、そよぐ風と、舞い散る花びらに意識を向けている
風にそよぐ葉の音は耳に心地いい。彼女がここを通っていることを知らなければ、俺は一生この葉桜になりかけの道を知らなかったかもしれない
風に煽られた花弁が、ゆっくりと彼女の艶のある髪にたどり着く。ここらではよく見かける光景だが、彼女の髪に着いた花弁はどことなく格別に見える
彼女はそんな事には気が付かずに、また再び歩き出した
まだ早朝の、人通りがほとんどない道を、ゆっくりと、じっくりと、味わいながら進んで行く。鼻歌交じりに、嬉しそうに、楽しそうに、桜の舞い散る道を踏みしめる
それを眺めている俺は、桜を眺める振りをしながら、桜と戯れる彼女にばかり意識を向けている
一陣の風が俺と彼女の間を吹き抜ける。桜並木の花びらを舞い上げ、綺麗な桜吹雪を巻き起こす
それが晴れ、ゆっくりと桜の花びらが地上に落ちているその奥で、いつの間にかこちらを振り向いていた彼女
グロスしか塗っていないだろう、柔らかな薄紅色の唇を、楽しげに歪ませる。そして、その艶やかな唇が言葉を紡ぐ
「ねえ。君も桜……好き?」
最初のコメントを投稿しよう!