テーマ3

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吾輩は日課として、この公園を一巡りすることにしておる。吾輩が周り終えるころには、大体日が高く上っておる 今日も今日とて、この木の匂いに満ちた公園を巡っていたのだが、珍しいことに老夫婦と見える者たちが、公園のベンチに座っておったのだ 秋風薫るこの季節には、老骨に響くのか、年寄りが長時間座っているのは見かけぬ。散歩姿はよく見かけるのだが、しっかりと上着の前を合わせ、足早に過ぎていく姿ばかり見かけておる あのように早足では、刻一刻と色づいていく公園の木々を、十分に眺めることも叶わぬだろう。せこせことした現代人には、この公園の美しさを語っても仕方ないのかもしれぬ その点、今吾輩の目と鼻の先にいる老紳士はよく分かっていらっしゃる。色づき、青から黄色、あるいは赤へと色を変えた木々を見ながら、一杯やっているようだ 短く刈られた白髪を風にそよがせながら、右手に持ったぐい飲みを掲げる。土色の上着も、彼の表情によく似合っておる。ときに、目を細め、風に流れていく葉を見る時の表情は、老成した男を感じさせる。実に良き表情である その隣に居る老婦人と言えば、疲れてしまったのか、杖をベンチに立てかけ、体を紳士に預けてしまっておる。彼女の目は閉じられ、もしかすると寝息すら立てているのではないだろうか
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