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私は 梨が好きだ あの透明なみずみずしさが 好きなのだ みずみずしいくだものは たくさんあるけれども スイカでも モモでも ミカンでも メロンでもない あのシャリリと透明な音のなる 他の何色でもない 透明色の幸せの水をすすると 砂漠の中でオアシスを見つけたような 奇跡にも等しい喜びを得るのだ 私は 梨が好きだ あのちょっと控えめな 甘さ加減が 妙に可愛いらしくて 好きなのだ さくらんぼとも ばななとも ぶどうとも かきとも違った 甘さの中に 酸っぱさとほろ苦さを偲ばせた 初恋の味をほおばると 二十世紀のあの頃の想い出で 胸がいっぱいになって 切なさを伴った喜びを得るのだ 私は 梨が好きだ あの丸のような 台形のような 達磨のような 徳利のような 型にはまらない おおらかな形が好きなのだ 和梨の りんごに似ているけど 洋梨の ひょうたんに似ているけど 色や艶だけでなく つぶつぶしたでこぼこがあったり 少しいびつだったり 少しへこんでいたり 虫に食われていたりするのも それぞれの個性のようで りんごでもひょうたんでもない 千差万別のその姿の中に 私の歯型をくっきりつけると 惜しいことをしたような それでいて こうする運命にあったような 不思議な感覚に襲われて えもいわれぬ喜びを得るのだ 私は 梨が好きだ 私は 梨が好きなのだ 次はおまえの番さ おまえの好きなものは 何か 教えておくれ
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