12

9/14
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/499ページ
「………………。」 なんて言っていいかわからなかった。 顔が見れない。 やっと前方に南山タワーの建物が見えてきた、あそこからソウルが一望できるはず。 黙って歩きながら なぜか… だんだん頭が冷静になっていくのを感じた。 スティーブはとっても優しい人だ。 たぶん社会的にもすごく立派な人なのに、無学な私たちを馬鹿にしない。 同じ人として対等に扱ってくれる。 ヨハンの話からだって彼がどれだけ正しい人間かがわかる。 この人と向き合えたら、愛情を与えてもらえたら、どんなに幸せだろう。 この優しい手にずっと引っ張ってもらえたらどんなにいいだろう。 好きになって、好きになってもらえるかもしれない現実に体が震えた。 でも……恐ろしいと思う。 彼は私の生い立ちを知らない。 うちの両親や生まれ育った町のことを黙ったまま、彼に飛び込んでしまうことはできない。 だって… スティーブを騙すようなことは、絶対にしちゃいけない。
/499ページ

最初のコメントを投稿しよう!