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「西村、一桁多い!気をつけろっていっただろ!」
西村美和の上司の中村課長が、老眼鏡を頭にかけ契約書に顔を近づけながら大声を出した。その声の大きさに、フロア中の視線が美和に集中する。
一斉にみんなの視線を浴び、今すぐ会社から逃げ出したい衝動にかられながらも、そんな勇気、美和は持っていない。やっちまったぁ……。という溜め息を誰にも気づかれぬよう、小さくついてから、席を立ち、中村の元へと小走りした。
「申し訳ありません!」
中村の前に着くなり美和は、おでこが膝につくぐらい、深く頭を下げた。
言い訳は禁物だ。失敗したらすぐに謝る。社会人になってから、言い訳がいかに物事をこじらせるのかを美和は痛感している。特に、中村には言い訳は厳禁だ。中村に言い訳し、失敗したこと以上に責め立てられている人たちを美和は何人も見ている。
とはいえ、言い訳しなかったからといって中村の怒りで上がりまくった目尻がストンと下がるわけではない。
「最近ケアレスミスが多いぞ。気をつけろって俺の言葉、きいてんのか?」
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