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純平が謝っても、綾は無視していた。本当は、「次やったら許さないからね~」と、ニコッと笑ってこの気まずい状況を終わらせたかったのに。素直になれない綾には、それが、できなかった。
今朝は、香ばしいトーストと、牛乳たっぷりのカフェオレの朝ごはんを二人ならんで食べることもなく、駅までの道を二人並んで歩くこともなかった。同棲して、それははじめての出来事だった。
純平はどう思っているだろう。さっきは、「ごめん」と謝ってくれた。だけど私が無視してしまったから、怒っているかもしれない。たかが、使い終わった歯磨き粉を捨てなかったくらいで怒る女、一緒に暮らせないと思っていたらどうしよう……。
デートのたびに、帰りに別れるのが寂しくて、いつもいつも一緒にいたくて、純平のあの穏やかな顔を毎日見たくて。だから、同棲しようと綾は言い出したのだ。
「俺も、おんなじこと考えてたよ。だから、同棲しよう」
そううれしそうに言ってくれた純平の顔は、綾にとって宝物なのだ。
なのに、その宝物を自分の手で壊してしまった。
会社のデスクでパソコンに入力していても、綾はさっきから間違ってばかりいる。手を動かすより、溜め息のほうが圧倒的に多かった。
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