第1章    疑心暗鬼

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それにもし母が本当にその日は予定があって、 「今日は他に用事があるからダメなの」 と言ってきたとしても、それも疑ってしまうのである。 本当は私と行きたくないからそう言ってるんじゃないんだろうか と勘繰ってしまう。 あるいは、「今日は今日子と会う予定があるから私の誘いを 受けられないのではないか」 そんなことまで想像してしまう。 そして、本当のところはどうなのかはわからないので モヤモヤしたものが残ってしまう。 家族の中にいて、私は本当のことを知らない。 家族の中にいるのに、私は本当のことを知れないのである。 それが私という人間の大下家の中での立ち位置である。 こうして、こんな自分の性格も嫌でたまらないので、 いつしか私は母を誘わない、 誘えないようになっていた。
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