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自宅には星を観測出来る展望台があり、大学や研究施設等で置かれる様な馬鹿でかい天体観測機があるらしい。
住所を聞く限り、彼女は病院を抜け出し自宅へ向かう途中だった様だ。たまたまあの場所で体力が底を尽き、たまたま僕が立ち寄った。
偶然、まさしく奇跡。
今なら運命ってやつも信じられる。
彼女は何がしたかったのだろうか。
昨日の話は、理由の一部に過ぎない筈だ。星が見たかったのも間違いない。だとすると何だ…、この子の真の目的は…。
「実は…君の話は、何度も聞いているんだ」
………!?
突然の言葉に目を見開いて驚いてしまった。いや、まだ驚いてるんだけども。
「人違いでは…?昨日初めて会ったばかり…」
僕の言葉を遮る様に、彼女のお父さんは言葉を発した。
その内容は、更に僕を驚かせた。
自ら落ち着けと心中で唱え乍、記憶を過去へと巡らせる。
僕は学生時代に教員免許を取得したのだが、実習で訪れた学校で担当したクラスに…病気がちで登校していない生徒が居た。
その子はずっと入院中で一度も会えなかったが、実習最終日にその子に宛てて手紙を書いた覚えがある。
セピア色の記憶に、仄かに色が付いた。
宛名に記した名前を、まだ指先も覚えていた。無意識に人差し指で、太股へと文字を綴る。
もう分かるだろう。
彼女の名だ。
パズルの最後の1ピースの様に。
隙間無く其は僕に組み込まれた。
運命ってやつは、本当にあるらしい。
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