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彼女の名前を聞いた時に感じた、妙な違和感が解けていく。
ありふれた名前ではない、寧ろ珍しいくらいだ。
同姓同名の別人なんて事は無いだろう。
名簿で顔も見た事がある、髪型は違うが面影は強く残している。小さな顔に、大きな目、くっきりとした二重と長い睫毛は印象的だ。
今迄の忘れっぷりが嘘だったかの様に、一度切っ掛けがあればするすると思い出せてしまうものだ。
しかしどれだけ当時の情景を思い出してみても、彼女に対して手紙を送った事、最終日に撮影したクラス写真を同封した事、それ以上の事は無かった。
…あぁ、だから僕の顔は知られていた訳か…。
彼女は手紙に書かれた内容、文体、筆跡、そして写真から、想像と理想を絡ませた僕を作り上げて居たんだ。
昨晩…僕は彼女に自分の現在を包み隠さず、全て顕け出して話した。
尋ねられる侭に、大学を出てからの数ヵ月の話を事細かく。
何故あんなに興味を持たれて居たのか、気にもしなかった。
現状の不満、不安を笑い話に変換して同情を得る為か…、はたまた自分の様に人生の暗闇に怯える…同族を欲して居たのか。
マジョリティから自発的に溢れた僕はその環境に耐えられなくなっていき、何かにすがりたい思いの一心で受け入れてくれる人を探していたのかもしれない。
なんにせよ。
全て、話してしまったのだ。
意思に反して、なりたくも無かった圧倒的マイノリティに属する彼女に向かって。
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