プロローグ

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布団から天井を見上げるのは、幼少の頃から何千としてきただろう。 月明かりや何かしらの光源から眺める、光の灯さぬ照明器具は、なんだか寂し気に見えたものだ。 時を経て、年の数に従いその思い出は変化を遂げて行く。 友の隣で見上げた天井は広く、時を忘れて話に耽り。 女性の隣で見上げるソレは、なんとも言い難い充実感と安心感と共にあった。 それたけではない、様々な状況と精神によって、唯の天井が万華鏡の様に表情を変えるのだ。 それは幸せ然り、不安然り。 『天井の染みが人の顔に見える』 怪談話等で馴染みのあるフレーズだが、不安を煽る文句としては一級品だ。 直ぐ様手の届く範囲で無く、暗がりにうっすらと見える模様は、さぞかし不気味だろう。 僕は部屋を飛び出す数時間前、何時も通りに仰向けに寝転び溜め息を吐いた…そしてその瞬間だ…。 天井の暗闇に、未来を見た。 光を失い寂しく吊られた照明が、まるで鏡のようだった。 半世紀も経てば、否応無く孤独に天井を見上げる時が来るのだろう。 老け込んだ僕が、情けなく散った枯れ山の様な頭を抱えて涙を浮かべる。髭を剃る習慣等とうに捨て、年齢以上に皺の刻まれた目元は光を失った瞳を縁取る。 一人で、独りで。死んでいくんだ。 狭い部屋で、狭い世界で、誰の心にも残る事も無く。 人の顔に見えた方が余程良かっただろう。所詮他人の姿だ。 だが、情けない自分の姿を見るのは、想像以上に苦しい。少なくとも人間は、自身の心の中で何処かを褒め、尊厳を保っている。 それすべてが、否定され…踏みにじられる。
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