25人が本棚に入れています
本棚に追加
***
一日の仕事を終え、ゆっくりした足取りで自宅に帰ると家の前で三神さんが待っていた。
「こんばんは、衣笠先生!」
眩しくなるような笑みを浮かべ、しっかりお辞儀をする礼儀正しいところに、彼の実直さを感じた。
「はい、こんばんは」
「昨夜はゆっくりと眠ることが出来ました。朝、起きたら部屋の雰囲気も何だか綺麗になった感じで、驚きの連続です」
マイナス面の感情に囚われ、怨み辛みを彼女が醸し出していたからね。それを取り除けば必然的に雰囲気が良くなるのは、当然なのだけれど。
「それは良かったです。三神さんの家にいらっしゃった幽霊は、きちんとあの世に送り出しましたので、安心して下さいね」
魅惑的な笑みに負けないように、ニッコリと微笑んで見せて、家の鍵を差し込んだ。
「あのっ……昨日の返事は……」
慌てたように、私の背中に向かって声をかけてくる。
ここに来た理由のメインが、告白の返事なのかもな。
口元を綻ばせながら振り返って、三神さんの顔を見つめた。
「4つも年上で行き遅れたオバサンだけど、後悔しない? しかも霊媒体質なんて、厄介なものを抱えてるけど」
「オバサンなんてとんでもない! まだまだ若いですって。えっと霊媒体質っていうのは、つまり……スギ花粉のアレルギーみたいな感じって考えればいいかと」
三神さんの言葉に、開いた口が塞がらない。霊媒体質をアレルギーに例えるなんて、何だか面白いじゃないの。
「そんな風に言われちゃったら、断る理由がないわ。不束者ですが、ヨロシクお願いします」
吹き出しそうになるのを堪えて右手を差し出すと、大きな手で握手してくれた。
最初のコメントを投稿しよう!