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「夜、まともに寝られないとここに書いてありますが、具体的に何かされているとかないですか? 多分女の人に……」
ズバリと指摘してやると呆気にとられた顔をし、何故か拍手されてしまった。
「そうなんです。毎夜女の人が現れて、寝てる僕に抱きついてくるんですよ。断っても離してくれなくて」
「それでは今夜、眠る前に私のことを思って下さい。助けを求める感じで」
「衣笠先生の事を想う……。助けを求める感じよりも、違うことを思ってしまうかも」
「ダメですよ。きちんと強く助けを求めて下さい」
(突然、何を言ってんだろ。この男は……)
半ば呆れながら注意すると先程よりも顔を引き締め、じっと見つめられてしまった。
「衣笠先生は付き合ってる方、いらっしゃるんですか?」
「こんな商売をしてるんでいないんですよ。父に見合いを勧められている状態です」
「それなら、僕と付き合って下さいっ!」
いきいなりの展開に声が出ない。幽霊相手ならすかさず除霊するところだけど、相手は生きている人間なワケで、追い払うに祓えないのである。
「間違いなく衣笠先生の方が年上でしょうし、僕はこんな身なりなので間違いなく頼りないと思えるでしょうが、貴女を想う気持ちは誰にも負けませんっ!」
そんなことを語られても逢ってまだ20分と少々。心底困り果てるしかない。
「一目惚れでもしたんですか?」
「はいっ。目が合った瞬間に恋に落ちましたっ」
しかもその勢いに飲まれそうな自分がいる。三神さんがいい人なのは、もっているオーラから伝わってきていた。とてもピュアな感じ――
「貴方の様な普通の人が、霊を相手にしている私と関わり合いになったら、きっと苦労すると思いますよ」
今まで付き合ってきた人たちを例えに出して教えてあげた。私に相手にされない霊が、当時付き合っていた彼氏の元に流れてしまうということが、ごくたまにあったから。それなのに首を横に振り、全然平気だと示してくる。
「苦労しない人間はいないですよね。僕としては何でも経験してみたいと思ってます」
この人……名前どおり勇ましい人なんだな。
「すみません。急な話なので一晩考えさせて下さい。だけど今夜はきちんと、助けを求めて下さいね」
念をしっかり押して、この日は帰ってもらった。
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