幻影~あなたの背中~

3/52
前へ
/55ページ
次へ
扉を開いて外に出た瞬間、ポカポカとした春の陽気が私達を包み込む。 亜美は「いい天気だねー」と言いながら空を見上げた。 そう言えばあの日も、今日みたいに青い空だった。 あれから7年。 私は母親として成長したのだろうか。 泰彦さんは私が苦しんでいる時、いつも言ってくれていた。 「皐月は頑張り過ぎる事があるから心配だ。たまには空を見て、何も考えない時間も必要だよ」 半年も掛けた企画が崩れ、上司に叱責された時も。 マリッジブルーになり、毎晩泣いていた時も。 亜美が産まれ、夜泣きで気が狂いそうになっている時も。 泰彦さんは包み込むような笑顔で、私の頭を撫でながらいつも言ってくれた。 泰彦さんが亡くなってから7年経った今も、私はこうやって空を見上げては深呼吸している。 亜美もほとんど手が掛からなくなってきた。 たまにクラスの友達と、パパが居ないことが理由で喧嘩したり、泣いて帰って来た事もあった。 その度に私は同じように涙を流しながら、亜美を抱きしめた。 すると、亜美はすぐに明るい笑顔に戻って、「明日も頑張る」と呟く。 その笑顔に、私はどれだけ救われたのだろう。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

256人が本棚に入れています
本棚に追加