幻影~あなたの背中~

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「ママ、そろそろ行こ」 そう言って私の上着の袖を引っ張る亜美。 私は「ごめんね」と呟きながら歩き出した。 桜並木の歩道を通り、川を泳ぐ小魚に目をやりながら歩いていく。 しばらく歩くと班登校の班長さんが大きく手を振っている。 「亜美ちゃん、亜美ちゃんのお母さん、おはようございます!」 6年生の班長さんは私に深くお辞儀をして、亜美を班の列に参加させた。 「おはよう、久美ちゃん。いつもありがとうね。じゃあね、亜美!頑張ってね」 私は班長さんに頭を下げた後、小さく手を振る亜美に声を掛けた。 私は亜美の班が学校に続く交差点を曲がるまで、手を振って見送った。 スマホを取り出し、時刻を確認する。 『ヤバイ……そう言えば今日から新人が三人来るから、早朝ミーティングするって人事部長が言ってたのを忘れてた!』 いつもはコンビニで100円のコーヒーを購入し、優雅に歩いて向かう駅までの道。 私は一本でも早い電車に乗る為に、寄り道などせず競歩のようなスピードで駅へ向かう。 数分後、エスカレーターに足を乗せた私は、エナメルの黒いカバンから赤い定期入れを取り出した。
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