カン三兄弟の神についての考察

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1.三兄弟の旅  10年の間、カンとその弟二人は旅を続けた。カンが30歳になる時旅立った。  カンの両親は独自な神を作り上げ、教祖になっていた。神に仕える者は、神が早く迎えを寄越すためか、早死にしてしまった。カンは20歳で教祖となり、教徒を導いた。妻との間に三人の子供を設けたが、両親の教えはあまりに形式的すぎる感じていた。カンがどれほど深く自省しても、形式的な教えの中に真理は含まれていなかった。  21世紀の人類にとって、生きることとエコ活動は同義語に近いものだった。温室効果ガスの大気濃度が毎日報じられていた。気候変動により人類が住める場所は減っているのに、老人が死なないので人口はまだ増えていた。人口が増えても、農地は減少しているので、単位面積当たりの収穫量を増やす努力を続けたが、食糧の生産量は減った。飢餓がアフリカだけでなく、全世界を襲っていた。気候変動に伴う大規模な嵐や旱によって、食糧生産はさらに減少し、餓死者が続出した。地下資源は確実に枯渇し、誰の目にも暗い未来しか見えなくなった。  未来が暗いのなら、神にすがるしかないとカンは説いてきた。神が人類を罰しようとしていたのなら、甘んじて受けなければいけない。その後に救いがくると説いてきた。すべてを投げ打って神に救いを求めなさい。自分で自分を救えると考えることは、神を怖れないことだ。神のお御心にすがって生きなさい。だが、そんなことより省エネが必要だといわれ、布教している最中の照明を消されたことがある。子供たちから、ゴミの分別方法が違うと注意されたこともある。信仰の限界が見えてきたような気がした。天才的な頭脳を持っていると尊敬されていたカンが、悩んでしまった。
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