1章 出逢いの春

1/5
前へ
/106ページ
次へ

1章 出逢いの春

秋風奏。 彼女はとても目を引く容姿をしていた。 大きくてパッチリとした瞳。 形のいい鼻。 さくらんぼの様な小さな口。 顔は小さく。 肌は白い。 手足も細く長い。 顔だけを見ても、目を引く美貌だ。 けれど、なにより惹きつけるのはその髪だ。 白。 一点の曇りもなく白く。 長く伸ばされた白い髪だった。 けれど本人は全く気にも留めずに、のんきにヘッドフォンを耳に着けていた。 近くを通り過ぎていく学生。 彼らは彼女に興味はあるものの、誰も声をかけなかった。 掛けずに、通り過ぎていく。 誰とも関わりをもたず。 本人もそれを気にしない。 人との関わりも。 自身の髪の色も。 気には止めていなかった。 とっくの昔に。 慣れてしまった。 この髪になってから。 もう何年もたった。 彼女の髪は。 色を失ったのだ。 10年ほど前に。
/106ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加