第1章

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血なまぐさい部屋の中、クチャクチャと咀嚼音だけが聞こえてくる 男は1人、血で出来た水溜まりの中に座り込んでいた 男は何かに気付き、水溜まりの先を見る そこには、男が愛した筈の女の変わり果てた姿があった 肉塊となったそれは熱の無い冷たい眼差しで男を見ていた 男が自分の両手を見ると、肉片が付き血に汚れていた 男はふと考えた 何故このような状況になっているのか、と。 そして直ぐに思い出した そうだ、俺が殺したんだ。女の喉を引き裂き、その喉に喰らい付いた後、ゆっくり腹を引き裂いてその臓物をかき混ぜたんだ 男は丹念に自分の手を舐める 少し生臭かったが、女の臓物は口の中で甘美にとろけ、後味はとろりとしていた。 男は肉塊を掴むと夢中で食べ始める これがおれがあいしたおんな これがおれがくいたいおんな これがおれをあいしたおんな 甘く、しかしさっぱりととろけるような後味の為か手が止まる事は無い 男は歪な笑みを浮かべていた 「あぁ、空腹でおかしくなっていた…そうだ、俺は…饕餮だ。」 確認するように呟き、男はまた肉塊を貪り始めた 月の美しい夜だった。
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