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見上げた茜色の空。妖精のように顔を出し始めた星々が山脈の稜線に浮かび、太陽は闇色に混じり始めた。
長く色濃く地面に染み渡る遺構の影。かつての栄華を風化させるように鋭い冷気が走る。
山に囲まれて眠る都。片隅には複数の男女が焚き火を前に黄昏ていた。
俺もそのうちの1人だった。
薪の弾ける音が妙に大きく聞こえる。じんわりと炎が体を抱きしめ、心の芯までほぐしていく。
誰も口を開かない静かな時間が流れ、焚き火だけが饒舌になっていた。みんなその音に耳を傾けている。
安らぎの中に漂う微かな不安と緊張、そして悲哀。みんなこの時間が終わることを嫌がっている。
しかし俺は柔らかな温もりを振り払い、チクチクと針で意地悪する冷気を無視して輪の中から抜け出した。
古の欠片たちを眼下に見下ろす。口を開こうかこのまま黙っていようか迷っていると、背後でバキッと音がした。
それを合図に口を開く。
「こんな時にしか話せなくて、ごめん。でも、今なら話せる。俺の…俺たちの歩いて来た道を」
誰も、何も言わない。その代わりに焚き火が拍手を送り、遠くの風鳴りから喝采を浴びた。
急かされていると思った。だけど、そう焦らなくてもいいじゃないか。どうせ長くなる。長い長い話になる。ならいっそ、のんびりゆっくりしよう。
大きく深呼吸。体を突き抜ける氷のような風。楽しかったことも悲しかったことも全て吐き出せと急き立ててきた。
白い息を吐き出す。
練り込むようにもう1度吸う。
そして___
「さあ、物語ろう」
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