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ピピピピピピ!!
携帯電話が奏でるけたたましい電子音が、四畳という空間に鳴り響いた。俺こと神凪颯太(かんなぎ ふうた)は、携帯電話の画面を横一文字になぞって音を止める。それから体を起こし、同じ部屋の住人である本棚の本たちにあいさつした。
「おはよう…」
当然、本たちは何も返してくれない。ただ寒さに身を寄せ合い、持ち主である俺を見下ろしている。
布団から冷たくなったフローリングの床に降り立ち、会社へ行く身支度を整える。着替えて寝癖を直し、1階に降りて顔を洗うだけだが。
寝癖だらけだった髪は、仕事が忙しくて切る暇もなく放ったらかしになっている。そのため腰まで届きそうな長さだ。母親似の顔と相まって、今も昔も女と間違えられる。痴漢や盗撮なんて日常茶飯事だ。
痴漢の犯人を捕まえるたびに、『警察庁総監の息子』である俺の知名度が警察官の間で上がってしまうのが難点である。
今更そんなことを嘆いても仕方ない。世の性犯罪者を1人でも多く牢屋に入れることができるのだと思えば、少しは前向きになれる。
生まれつき何をやっても上手くいかない不幸体質である俺は、あまりネガティヴに考えないようにしている。後ろ向きな思考は時に人を飲み込み、身動きが取れなくなってしまうから。
高校時代、俺はバスケットボール部に所属していた。その大事な試合で、スリーポイントシュートが高確率で入る先輩が時間ギリギリでシュートを外し、負けたことがある。
原因は、俺が視界に入ったから。俺は何も悪いことをしていないのに悪役にされ、誰にも相手にされなくなった。
これが俺の不幸体質。痴漢にあうのもそうだろう。俺は生まれつき、幸がないのだ。
とは言っても、こんなこと治しようがないから、せめてこの不幸をネガティヴに捉えないようにするしかない。
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