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数歩も歩かぬうちにいきなり肩を掴まれ、その足取りを強制的に止められたのだ。
「あなたうちの店でバイトしてみない!? 超高時給で超好待遇! 間違いない、あなたは間違いなくナンバーワンになれるわ!」
ドン、という効果音が出てきそうなほどの勢いで、女性は僕目がけて人差し指を突き出す。
その迫力に圧倒されて、僕は思わず「ふえ?」という少し間抜けな返事をしてしまった。
しかしそんな僕など気にはせずに女性は話を進めていく。
「何歳? 高校生? ていうかいま暇? 暇よねっ!? よし、じゃあ今からうちのお店に来て!」
ふん、ふん、と息遣いを荒くしてやや興奮状態のこの女性。
身体を動かすたびにその豊満な胸がブルンブルン、と揺れるので正直目のやり場に困る。
いやいや、そんな馬鹿なこと考えてる場合かよ。
とにかくこの人を落ち着かせよう、そう思った僕はとりあえずこう言った。
「ちょっと待ってください、まずは落ち着いてって、ええ!?」
そんな僕の試みもむなしく、ズルズルと引きずられたまま、そのお店とやらに連行されるのであった――
「えぇ!? あなた……お、お、男なの!?」
店へと連行されて早々、椅子に座らされた僕は男であることを告げた。
「はい。だから、ここでバイトをするのは不可能です。すいません」
とんでもない勘違いをされてもなお、僕はあくまで冷静に話す。
普通に考えれば、性別を間違えられることなどあり得ないだろう。
だが、僕が女と間違われるのは別に今日に限った話ではないのだ。
街を歩けば男にナンパされ、電車に乗れば痴漢されることもある。
しかも、そういうことは決まって冬に起きる。
コートを着たりと、身体のラインが上手く隠れてしまうと、この女顔に拍車をかけていっそう女っぽく見えるのだろう。
だから僕は冬が大嫌いだ。もういっそのこと冬眠してしまいたいほどにな。
なかば投げやりになりつつあった僕を見つめながら、女性はこう言った。
「そんな……あなたなら我が"ぴゅあぴゅあラブリーはぁと"で最高のメイドになれると思ったのに……」
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