第1章

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メイド喫茶の勧誘だったようだ。しかも従業員の。 ひどく落ちこんだ女性を目にしてもなお、僕は少しも申し訳ない気持ちにはならなかった。 本音を言えば、いい加減にして欲しい。もう懲り懲りなんだよ、女と勘違いされるのは。 やや語気を強めて、僕は女性に言い捨てた。 「勘弁してくださいほんとに。なんですか、ぴゅあぴゅあラブリーはぁとって? そんないかがわしい名前のところで働きたくないです」 僕の言葉にムッとした表情を見せる女性。そして女性は眼光を鋭く光らせながら言う。 「待ちなさい? 我がメイド喫茶をバカにするとはいい度胸してるわね? その身をもって謝罪しなさい今すぐに」 おいおい、冗談じゃない。元はと言えばこの人が悪いんじゃないか。 苛立つ思いを募らせながら僕は言う。 「とてもメイド喫茶とは思えませんけど? てっきり風俗か何かだと思いましたよ。店名変えたほうがいいんじゃないですか?」 「風俗? あら、そう?」 キョトンとした表情で、意外そうな顔をしているこの女性。 僕の嫌味を理解していない? まあいい……まあいいさ。 それなら、とにかくこの場からさっさと立ち去るまでだ。 立つ鳥跡を濁さず、とは言えないな。もう濁しまくっちゃったよ僕。 「もういいですか? 僕は男なんでここでは働けないです。それじゃ」 そう言ってこの店を後にしよう、と思ったんだが……残念ながら逃げられませんでした。 机をバンと叩いて立ち上がり、女性は声を荒げて叫ぶ。 「ちょっと待ったぁぁぁぁぁ!」 あまりの大声に僕はすくみ上り、その場にピタリと立ち止った。 「何ですかいきなり!? 驚かせないでくださいよ!」 後ろを振り返れば、そこには真剣な面持ちで立ち尽くす女性の姿があった。 そんな顔を目の当たりにすれば、自ずと耳を傾けざるを得ない。 僕は女性の言葉を黙って待った。 「あなたが男だろうと女だろうと関係ない……可愛いは……正義よ!」 その表情でその発言!? 落差激しすぎるぜおい。 だめだこいつ早くなんとかしないと。
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