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「いや関係ありますって! 男の僕がメイドなんてやってたらおかしいでしょ!? つまりはそういうことですよ!」
「むしろそそるかも?」
「そそらねぇよ!? 一体どこのどいつが僕のメイド姿なんか見て喜ぶってんだよ!?」
「あたし?」
なんで疑問形なんだ。しかもなんであんたが喜ぶんだよ。
「ああもう、僕は嫌ですから! やりたくないです! そんなこと!」
身の危険を感じた僕は急いで逃げた。しかし、走りながら背後を確認すればそこには不敵な笑みを浮かべる女性の姿があった。
その謎の笑みを目にした僕は、いよいよ恐怖で身体が縮み上がり完全に活動停止してしまう。
女性はゆっくりとした足取りでこちらに近づいてくる。
そして僕の正面で足を止め、不気味な笑顔でこう言った。
「あらあら、ちょっと待ちなさいよ?」
ガシっ、と腕を掴まれる。その力はすさまじく、とても抵抗できるとは思えなかった。
逃げるにも逃げられなくなった僕は、それはもう男に乱暴される寸前の女みたいな声を出して暴れたさ。
「離して、離してください! 警察呼びますよ!? ていうかいい加減離せよこの野郎!」
威勢よく怒鳴りつけても、そんなものは通用しない。
ああ、僕がもっとドスの利いた声を出せれば。
ああ、そもそも僕がこんな顔をしていなければ。
後悔しても、もう遅い。この女の魔の手からもう逃げることなどできないのだから。
「あなた、烏帽子(えぼし)高校よね?」
ギクリと顔を強張らせ、僕は女性から顔をそらす。
なんでこいつが僕の高校を知っているんだ……?
めちゃくちゃな思考回路で懸命に考える。
そうだな、冬休みにこの辺をふらついてるやつなんて、烏帽子高校のやつぐらいしかいない。
きっとこの女は当て勘で言った違いない。ここは動揺せずに冷静に対処しよう。
ぜんまい仕掛けのおもちゃのように、ぎこちなく顔を動かして女性を見る。
「そ、そ、そんな高校は知らないな……。だいたい……ぼ、僕は大学生だ」
上手くいきませんでした。どうやら僕はめちゃくちゃ動揺しているようだ。
ていうか噛みすぎだぞおい。
「ふふ、随分と嘘が下手くそなのね」
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