0人が本棚に入れています
本棚に追加
ああ、暑い……暑いぞほんとに……。
そしてついてない。ほんとに今日はついてない。
暑いのぐらい我慢しろ。そう言いたい気持ちも分からなくはない。けどな、そうじゃないんだ。
「おいおい、どうした渚? そんな浮かない顔して!? せっかくの良い天気も台無しだぞ!? もっとシャキッとしろよな」
そう言って白い前歯をむき出しにして、爽やかな笑顔を僕に見せる。
「お前が原因だよ……僕が浮かない顔してるのはな。ただでさえ暑いのに余計暑くなるんだよお前が隣にいると」
「またまた、ご冗談を~」
バシ、バシと肩を叩いて、スキンシップをとるこの男。
その名も向坂行介(むこうさかこうすけ)。
僕と同じ烏帽子高校に通うクラスメイトだ。
黒髪、短髪、サッカー部。絵に描いたように典型的な体育会系男子ってやつ。
「っていつまで僕の肩を叩いてんだよ!」
痛いんだってば、お前のその肩たたき。
距離を話そうとあえてゆっくり歩くも、依然として僕の隣を歩く向坂。
僕は腹立たしげにこう言った、
「なんでお前は僕の隣を歩いてる……さっさと前行けよ、暑苦しい」
「連れないこと言うなよな? 俺たち友達じゃんかよ!」
「だが断る」
「使い方間違ってるからね!?」
「じゃあ断る」
「なんで投げやり!?」
向坂は僕の耳元で猿みたいに騒ぐ。この無駄に爽やか系イケメン野郎が。
こいつは幼馴染でもなければ、ましてや女ですらない。
そんなこいつとどうして一緒に朝から登校しなきゃならない。
願い下げだ、そんなもの。
「お前が美少女に変身してくれるなら、一緒に登校してやっても構わんぞ?」
「なんで上から目線なんだよ……だいたいお前がもう女みたいなもんじゃん? いっそのこと女になっちまえよ!」
プツンと何かが切れる音がした。
ああそうかい、どうせ僕は女男ですよ。
「今からお前は友達(仮)から通行人Aに格下げな」
「俺はちゃんとした友達ですらなかったのかよ!?」
もしかしたらこの中には、僕が女みたいな顔と女みたいな声をしてることをすっかり忘れている人がいるかもしれない。
けど、どうか忘れないで欲しい。
ぴゅあぴゅあラブリーはぁと、通称ぴゅあラブの従業員にしてメイド長であるこの僕が、店でいまだに男だと気づかれないほど女みたいであることを。
最初のコメントを投稿しよう!