第1章

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店に到着した僕は、裏口から中へと入っていく。 すると早速一人の女性に声を掛けられた。 「渚ちゃんは今日も早いのねえ?」 ぴゅあぴゅあラブリーはぁと、通称ぴゅあらぶ。 この店はファンの間ではそう親しまれている。 「いえいえ……琴乃さんに会えると思うと居ても立ってもいられなくて」 この女性は杉浦琴乃(すぎうらことの)さん。 この人こそが、僕を貶めた張本人にしてあの悪魔だ。 「あらあら、嬉しいこと言ってくれるじゃない? メイド長さん」 僕の嫌味に動じることなく、むしろ嫌味を嫌味で返してきやがった。 琴乃さんの言う、メイド長というのは紛れもなく僕のことである。 いわゆるバイトリーダーみたいな役職のことだ。 ここぴゅあラブではそれをメイド長と呼ぶわけさ。 僕は作り笑いを琴乃さんへと向けて、次の言葉を待った。 そうそう、メイド長なんて可愛らしい響きだけと、これになるためには結構大変だったりする。 接客スキルや人間性、そしてリーダーシップ。一番重要なのは人気があるかどうかだ。 では何故、男の僕がそんなたいそうな地位に就けたのかというとだな。 「今週も一番人気は渚ちゃんだったわよ?」 そう、思わずながら僕は、ぴゅあラブで一番人気のメイドなのだ。 お客さんにの帰り際に投票権を渡して、そこにそれぞれのお気に入りのメイドさんの名前を記入して投票箱に入れる、というシステムだ。 某アイドルみたいなね。 一週間という期間を設けて、その投票結果を週末に開票する。 別に一番になったからといって何かがあるわけじゃない。 ただの従業員のモチベーションアップみたいなものだろう。
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