第1章

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「さてと、今日はもう寝るか」 妹の部屋の扉とは正反対な真っ黒の扉を開いて自室へと入り、すぐさまベットへとダイブした。 わずか数十秒、僕は深い眠りに落ちていく。 「ーーお兄ちゃん! 勉強教えて!」 妹が元気な声で僕に話しかける。 ああこれは夢だ。すぐに分かった。 「今勉強中……後で教えてあげるから少し待ってろ」 「はぁ~い……じゃあそれまで一人で勉強してる」 「うん、ごめんな」 そういえばこんなことがあったな。これは確かに夢だけど、実際にこんな会話をしたことがあった。 妹が小六で僕が中二のころ、だったかな。 小学校でイジメられた僕は、地元の公立中学には通わず私立に通っていた。 そんな僕の真似をしたかったのか、妹も中学受験すると言い張ったのだ。 妹はあまり頭が良いほうではなかったけど、僕が私立へと通っていたのもあって、塾に通わせられる程お金に余裕はない。 だからこうして、妹は自分で勉強していたのだ。 そんな妹を見かねた僕は、自分が私立へと通っていることへの申し訳なさから妹に勉強を教えてあげていた。 自分で言うのもなんだが、僕は頭が良い方だったので正直妹が僕と同じ学校に通うことは難しい、そう思っていた。 「凛子、調子はどうだ?」 「うぅ……やっぱり算数ができないよぅ……お兄ちゃん助けてぇ……」 ちなみに妹は算数が壊滅的だった。僕も得意ではなかったけど、僕のそれとは次元が違う。 「凛子、別に無理して私立に通う必要はないんだぞ? お前は僕と違って友達も多い。公立にいったって、ちゃんと勉強すればどうにかなるさ」 逆に私立にいったって落ちこぼれていくやつもいる。そういうやつを僕は何人も見てきた。 人生は公立か私立かのどちらかにいってもさほど変わりはない。 結局はどこにいっても頑張れるか頑張れないかが今後に大きく左右するのだ。 「私立に行きたい理由でもあるのか?」 きっとそんなことは、妹も重々承知してるだろう。 それでもなお私立にいきたいという理由、それを僕は知りたい。 「あたし……あたしは……おにい―――」
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