第1章

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ドタバタと少女が去って行ってから、約五分。 またしても少女のご来店だ。 「さあ、この店で一番人気の渚ちゃんを指名させてもらおうかぁぁぁぁぁ!」 ドン、とあまりにも勢いよく扉を開けるもんだから、ベルは吹っ飛び”チン”というあと一歩で卑猥になってしまう音が申し訳程度に鳴った。 周りの客もメイドも「うわ、また来たよ」と言いたげな表情を浮かべている。 それが普通の反応だし、僕もそうするはずだった。 けど、この豪快な少女が連れてきたもう一人の少女を目にした僕は、思わず口を半開きにしたまま数秒間完全に固まってしまった。 「えーと、えーと……それで、噂の渚ちゃんというのはどなたのことでしょうか?」 自分の名前を呼ばれてもなお、僕は呆気にとられていた。 周りのメイドに「渚さん、なんか指名されてますよ?」とヒソヒソ声で教えられてようやく意識を取り戻すのであった。 「あ、はい……僕が渚です」 やっべぇぇぇぇ! 気が動転して、めちゃくちゃ普通に喋っちまった! 大丈夫だよな? まさか今ので男だってばれたりしないよな? 「うっひょぉぉぉぉぉ! まさかの僕っ子!? やばい、やばいやばいやばい! うあぁぁぁぁぁ!」 よかった、ばれてないみたい。それと、この人もの凄く怖い。 救いを求めるわけではないが、この恐ろしい少女の後ろでちょこんと立っているもう一人の少女に視線を送る。だがしかし 「な、な、渚ちゃぁぁぁぁん! かっわいいよ~う……うへへへへ……」 お前もかよぉぉぉぉ!  最近の中学生はみんなこんな感じなのか!? 違うよな!? 違うと言ってくれ! 頼むから! だって、だって自分の妹がこんな変態だったなんて思いたくないだろ!? プールの塩素で色落ちした、その茶っこくて長い髪。 えくぼは恋の落とし穴と言わんばかりに、笑った時にできるその愛くるしいえくぼ。 そしてある種病的なほどに青白く、だが透明感があって思わず触ってみたくなるほどのその綺麗な肌。
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