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そう言って僕は、その場を足早に立ち去ろうとした。
しかし、この二人のやりとりを前にして、僕は今日で二度目の活動停止をしてしまう。
「銀ちゃん……あたしもう鼻血でそう……渚ちゃんが可愛過ぎて、鼻血でそう……」
「凛子ちゃん! こんなとこでくたばるわけにはいかないんだよ!? だってまだ、あ~ん、もやってもらってないんだよ!? 頑張らなくちゃ凛子ちゃん!」
なんで女なのに女に興奮してるわけ? さっぱり分からん。
そうして二人に恐れおののいていると、琴乃さんからフォローが入る。
「こら、渚? なにボーっとしてんの?」
「はっ、すいません……ちょっと意識が……」
「いいからとっとと戻りなさい」
「はい……」
琴乃さんと小声でやり取りして、僕はどうにか正気を保った。
ほどなくして二人からメイド特性オムライスの注文が入る。
まあこんなものは、はっきり言ってしまえばレトルトなわけだ。
料理のできない僕でもちょちょいのちょいさ。
その上値段は900円ときたもんだ。要するに詐欺です、こんなもの。
「お待たせしました、お姉ちゃんお兄ちゃん。渚の愛情た~っぷりのオムライスですっ」
出来立てのオムライスを、ゆっくりと二人の前に置く。
内心では「おらさっさと食って帰れ」と僕は思ってるわけだ。
しかしこれはあくまでも営業である。
だからこうして最大限の作り笑いをかましてやったのさ。
「渚ちゃんの愛情たっぷり!? そりゃもう貪り食べるしかないね!」
なんてはしたない。女子中学生が使うような言葉じゃないだろ、貪り食べるなんて。
「食べ終わった食器も舐めまわしたいぐらいだねっ!」
お前もかよ!? こんなやつらより僕のほうが女子力高いんじゃないだろうか。
そうして僕が悶々としていると、ツンツンと腹をつつかれた。
「でさでさ、渚ちゃんってどこの高校通ってるの?」
お前は男子高校生かっての。店員にナンパすんじゃねえよ、まったく。
「お姉ちゃんごめんね。それは秘密だよっ?」
これこそ営業スマイルならぬ、メイドスマイル。
例えどんな客を相手にしてもその笑顔が崩れることはない。
そう、まさしく鉄の仮面を被るが如きこの笑顔。破れるものか、お前らなんざ若造二人に。
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