第1章

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「あら、お帰り」 帰宅して早々、ちょうどリビングからお袋がでてきた。今日のあの一件をもって、あの二人の少女のうちの一人が僕の妹だと確信した。 最初こそ、ただの似た人で済ませられたかもしれないが、妹のあの”僕と名前が一緒”という発言で、そうはいかなくなってしまった。 引きこもりのはずの妹が何故あんなところにいたのか。 いや、内容はどうであれ、あんなに元気そうに友達とはしゃいでる妹を目の当たりにして、引きこもっている理由を聞かないわけにはいかなかった。 「お袋。凛子は部屋にいる?」 「いるけど、どうしたの? そんな怖い顔しちゃって?」 「凛子は、ほんとに男性恐怖症なのか?」 店員はみな女性だが、あんなに男ばかりが集うメイド喫茶で、男性恐怖症の妹が平然としてられるわけがない。 妹のすぐ後ろの席には男性が座っていた。それでも、特に気にする素振りも見せずに、友達とはしゃぎ合っていたじゃないか。 「いきなり何を言い出すのかと思えば。なんで今さらそんなこと私に聞くのかしら?」 「う……」 言えない……僕のバイト先のメイド喫茶で、男性恐怖症とは思えない様子の妹を見たなんて。 「根拠もないのに嘘だと決めつけるのは良くないわ。あなたらしくないわよ?」 根拠ならある。なのに言い出せない。それが悔しくて、奥歯をギリギリと噛みしめる。 いやそうだな。ここは一つ、メイド喫茶のことは黙っておいて、普通に街で妹を見かけた、という体で話をしてみよう。 「お袋、実はさ、街中で凛子を見かけたんだよ。あいつ女友達と楽しそうに話してやがった。でもさ、男性恐怖症だってんなら、街を歩くだけでも一苦労なんじゃないか?それなのに、男を気にするような素振りはなかった。これはどういうことだ?」 見かけたのはメイド喫茶だけど、まあこの嘘にお袋が気づくとは思えない。 お袋は、少し何かを考えてるような顔をして、それからすぐに僕に言った。 「あんたの言いたいことは分かったわ。確かに、凛子のことを疑う根拠もあるみたいだしね。けどね、男が怖い、って本人が言ってる限りは、あたしたちはそれを信じてあげることしかできないのよ。例えそれが嘘であっても、嘘をつく何かしらの理由があるんだろうからね。とにかく、凛子が自分から話してくれない限りはそっとしておいてあげたほうがいいわ」
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