第1章

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お袋は、口では納得しているかのように言っている。けど心の奥ではどうなんだろうか。 本当に、このままでいい、そう思っているのだろうか。違う。きっとそうは思ってない。こんなに苦しそうな顔してるのに納得しているわけがない。 「お袋……」 お袋の表情を見れば、今までどんなに悩んできたか容易にうかがえる。そんなお袋を前にしてもなお、僕は何もしてあげられることがないのか? 「お父さんも私と同意見だわ。凛子に任せましょう……」 お袋は力なく言うと、そのままリビングへと戻って行った。 凛子に任せる? そうした結果がこのざまじゃないか。いつまで経っても僕や親父と話そうとはしない。しかも、顔も見せやしない。 確かに親父もお袋も、妹のために色々と手を尽くしたのは分かる。それでもなお妹は変わろうとはしない。 何がダメなんだ? 何故妹は引きこもったままなんだ? そんなことはすぐに分かりそうなものだ。それなのに今の今まで気づかなかった。僕はとんでもない馬鹿だ。大馬鹿者だ。 なんで僕は妹にもっと、歩み寄ってやろうとしなかった。初めて、妹が引きこもりになった、と聞いてもなお僕は親父やお袋に任せっぱなしで、まるで自分には関係ないかのような態度をとった。 だけどそれはもうやめよう。親では踏み込めない領域にも、兄の僕なら踏み込めるじゃないか。 それなのに僕はそうしなかった。理由は単純だ。 恵まれた環境にいるのに、引きこもりなどに成り下がって、自分の人生を棒に振ろうとしている、そんな妹に心底腹が立ってしまったのだ。 前にも言ったが、僕は小学校六年間、散々いじめられてきた。それでも登校拒否になんかならなかった。 いじめを耐え抜いた。私立中学に進学する時も、都内一の名門中学に入ることを条件として自らに課し、必死に勉強した。 別にそれが両親への恩返しだと思ってはないが、少なからず両親は僕の努力を認めてくれていた。 じゃあ妹はどうだ。中学受験をやめ公立へと通い、しかも、いじめられたのかどうかは分からないが、進学と同時に引きこもりになった。 今では、妹の大好きだった水泳すらもやめている。 何もかも中途半端なことしやがって……。
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