0人が本棚に入れています
本棚に追加
今さら兄貴面すんな、そう言われても仕方ない。
けど、今妹に歩み寄ってやらなければもう一生このままになってしまうかもしれない。今しかないんだ。今しか。
意を決した僕は、何の迷いもなく三階へと上る。昨日までは、この階段を上るのもどことなく苦痛だったが今日は違う。
右足、左足ともに、上れ、上れ、と叫んでいる。さあ、もう妹は目の前だ。扉を開けばすぐそこにいる。
コン、コン。軽くて高い音が広がっていく。
「凛子、大事な話がある。開けてくれ」
「……」
やはり返答はない。が、諦めるわけにはいかない。もう一度、扉越しに話しかける。
「お前、今日は学校行ったのか?」
「……」
回りくどいのはやめるか。
「今日メイド喫茶行っただろ? そこ僕のバイト先なんだ」
ガタッ、と椅子から立ち上がるような音が聞こえる。驚くのも無理はないよな。従業員は女しかいないはずのお店で、てゆうか、メイド喫茶で、自分の兄がバイトしてるなんて言ってきたら衝撃だ。
「久々にお前の顔見たけど、元気そうじゃねーか。友達と一緒だったし、なにより引きこもりとは思えないほどはしゃいでたし」
まだ何も答える気はないらしい。
「お前たちが指名したメイド、ああ、渚ちゃんのことだけど、あれは僕だ」
さすがに鈍い妹でもここまで言えば理解しただろう。この状況を。
「何で僕が女装して、メイド喫茶でバイトしてるのかは――まあ、諸事情があってだな。……とにかく、そろそろこの扉を開けてくれないか?」
「……」
困ったな、まったく動くような気配がない。扉には鍵がかかってるからどうしようもできない。妹が自主的に開けてくれない限り、部屋に入る手段がない。
もうしばらく話しかけてみよう。
最初のコメントを投稿しよう!