第1章

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流架が可笑しそうにわらった。 「今日の予定は…」 はい、どちらへ? 香凛が意気込んで構える。 「何もありませんよ」 はぁ? 「聞こえませんでしたか?今日は何も予定はありません」 「じゃあ…?」 「はい、お部屋でゆっくりしていて下さい」 極上な微笑みで流架が頷いた。 わたし…いらないじゃない…? 流架の身のまわりの事は仁さんがしているみたいだし…? 考えてみれば一昨日も昨日も、秘書らしい仕事はしていない… 「わたし…要ります?」 黙っていられない性格の香凛は聞いた。 わざわざこんな同じホテルに滞在させてまで傍にいなければならない訳がわからない! 「会社に戻して下さい。仕事のある時はこちらに伺います」 それは無理ですね。 にっこり笑った流架が椅子から立ち上がった。 流架の身長だと立っただけで相当な威圧感だった。 いつの間にか仁の姿が消えている。 「あの…」 軽く恐怖を感じた香凛は2,3歩後ずさる。 しかし、飛んで来たのではないか?、と思う早さで流架に抱きすくめられていた。 「流架…」 そのあまりの力に苦しそうに香凛が声をあげる。 「あ…る、流架…離して…」 嫌です。 優しく微笑みながら、しかし腕の力は弱めずに流架が答えた。 「離しませんよ」 そして… 冷たい唇が首筋に埋められた。 ああ…そうか… 流架にはわたしの血が必要なんだ… 妙なエクスタシーを感じるあの血を吸われる感覚を心なしか待っている自分に驚く。 しかし、流架の唇はいとおしそうに首筋をさ迷うだけであの官能的なチクン、と言う歯を立てられる感覚はいつまで待っても来なかった。 「…流架…?」 「血を吸って欲しいんですか?」 ふふっ、と流架が銀髪越しにわらった。 そして冷たい舌で香凛の細い首筋を撫でる。 「はぁ…ぁ…っ」 子宮の奥がきゅん、となるあの感覚に香凛は立っているのも辛くなる。 そんな香凛の心のなかを読んだように流架はお姫様抱っこでスイートのベッドに運ぶ。 ゆっくりとベッドに下ろすと香凛の脇に両手をついて香凛を見下ろした。 「香凛…愛しています」 「だから…わたしは…」 婚約者がいる…! その言葉は流架の冷たい唇に遮られた。
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