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「東京も高い所から見ると素敵ね」
話をそらすように香凛はベランダに寄りかかった。
昨日と違い今日はスカイツリーのてっぺんまでくっきり見渡せる。
「すごい都市だと思います」
流架も頷く。
「まぁ、少し乱立しすぎではありますが」
香港ほど猥雑ではないし、平和な街だな、ってわかります。
「そうそう…このベランダからの東京の夜景もとても綺麗ですが…」
香港は百万$の夜景、って言われるでしょ?
あれ、何故だか知っていますか?
「んーっと…」
百万$払ってでも見たいくらい綺麗な夜景、ってことでしょ?
「一説ですが…」
夜景が有名になった頃、香港の一晩の電力にかかる費用が百万$だった、って説もあります。
「本当に?」
「あくまで一説、です」
流架がわらった。
「でも…由来が本当にそうだったら夢がありませんね」
流架の感想に香凛も頷く。
「わたしは、百万$払っても、の方だと思います!」
「私もそう思いますよ」
夢があった方がいいです。
と、言う流架に香凛は聞いた。
「流架の夢って…なに?」
「私の夢、ですか?」
そうですね…
そんな大それた夢はありませんね…
「愛する人と穏やかにつつがなく暮らしたいですね」
と、およそ億単位の物をポン!、と
あげたもの
などと言い切るひととは思えない言葉が返ってきた。
いや、あなた今、現在、穏やかでつつがなくはないから…
香凛はなんだか可笑しくなる。
くすっ、とわらった香凛を流架はいぶかしんだ。
「どうしました?」
「いえ、なんでも…」
あなたの暮らしは確かに、穏やかでつつがないもの、ではないな、と思って…
くすくす笑いながら答える香凛の言いたい意味が流架にはすぐにわかったらしく、
「しかも…ヴァンパイアだし、ね」
と、付け加えた。
それが一番穏やかでつつがなくはないわ、と香凛はますます可笑しくなった。
「あなたのようなひとが穏やかでつつがない暮らしを望んで…」
どこから見ても平凡な人が波瀾万丈の人生を求める…
「不思議ね」
もしかしたら流架にとっては穏やかな暮らしの方が身の丈にあっていないのだろう。
それはそれで気の毒だ、と香凛は思った。
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