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「お疲れ様」  間もなく午前零時にさしかかろうかという時間帯、自分の撮影シーンが終わった渡邊史和(わたなべふみかず)が控え室に戻ると、マネージャーの藤野が預けていた携帯電話を手渡してくれた。 「お疲れ様です」 「大貫監督からこの後、飲みに行かないかって誘われてるけどどうする?」 「いや、明日も早いし……今日はパスします」  わかったと、行けない旨を伝えに行くため藤野が控え室を出て行く。  メイク用のテーブルに浅く腰掛けた史和は手の中の携帯に視線を移した。   百八十センチを超えるモデルのような長身とバランスの取れた長い手足は、そんなちょっとした仕草でさえ様になる。  二十六歳になる史和は若手俳優の中でも演技力に定評があり、実力派イケメンとして知られていた。  また、彼のその涼しげな目元やすっと通った鼻梁、引き締まった薄い唇は一見すると冷たい印象を受けるが、そこがクールで知的だと幅広い年齢層から支持を受けている。 「タクシー呼んだから、二十分後に地下駐車場ね」 「あ、はい」  控え室の入り口扉から藤野が顔を覗かせ声をかけると、史和は携帯の液晶画面から顔を上げた。
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