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【一】
中学に入った二学期頃から私の成績が急に下がり始めたのは、そもそも学習する習慣をもたなかったからだ。勉強をせず最優秀であり続けた小学生でも所変わればなんとやら、はじめに英語、次に数学に対する苦手意識が芽生え始めたのである。それまでテストにおいて百点が当たり前の小学生だった私は、一問分からないだけで百点はとれない悔しさから、答案用紙を白紙で提出するようになっていたのだ。当然成績はガタ落ちし、両親は酷く心配して、どうせ塾ではサボるだろうと家庭教師を私につけた。そこはお袋の上手いところで、家庭教師としてやって来たのは有名女子大の綺麗な人であり、お袋の経営する美容院に来る客の長女だったのだ。私は、お袋に徹底されたフェミニズムを叩き込まれてきたのと、実際に綺麗なお姉さんだったことで従順に勉強した。彼女には妹がいて、私と同学年で同じ学校に通っているらしいのだが興味は無く、わざわざ隣のクラスにいる妹を見に行ったことはない。
私が二年生に上がると、お姉さんは大学を卒業して家庭教師を辞めてしまい、代わりにその弟が後任となり、しかもその年、妹と同じクラスになったのだ。そこで私は初恋を経験する。何とも言い出しにくいことに、二代続いた家庭教師の末っ子に恋をしてしまったのである。
当時の彼女は酷いニキビ面に銀縁の眼鏡をかけて、やたらと背が高く、姉弟に通じて成績優秀の優等生であった上にクソ真面目で、男どもには人気がない地味なタイプだったのだが、私だけは違った。確かに地味で酷いニキビ面ではあったし、さも優等生的な七三に分けただけのボブヘアに女性的魅力は薄かったろうが、誰もがそういう悪い点ばかりを見ていたので気付いていなかったのだろう。それまでの私にとって最も完成された造形的美は完全球だったのだが、見た途端にそれは違うと認識できたのである。
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