ののの湯

21/58
前へ
/58ページ
次へ
「おじさんてさ、目もそうだけど耳も若いねぇ。いや気持ちなのかな」  更に嬉しそうに笑う主人は、男から見ると何となく羨ましい存在だ。すると、今度は女将まで番台からわざわざ降りて私に近寄って来る。 「あんな若い娘が……、しかも女優さんみたいな娘が銭湯なんて、随分変わった趣味だと思ってたら、男の趣味まで変わってるから、あたしゃ面白くてさぁ!」 「違うよ。彼女とは幼馴染みなんだよ」 「あら、あんたこの近くの子だったのかい?」 「いや、違うけどね。それがこんなところで会ったから、そこは確かに面白いね」  すると、一旦は安楽椅子に腰掛けて嬉しそうにしていた主人が、「あっ!」と、声をあげて突如ガックリと肩を落としたのが見て取れた。 「あー、もう……、覗けねぇじゃねぇか!」  それを聞いて、私は可笑しくなった。 .
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

697人が本棚に入れています
本棚に追加