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【十七】
二十分ほどで風呂を上がり、着替えながら女将に森川さんが上がっていないかを確かめると、もう表で待っているという。そう言えば、私が送るのはバスが予定外だった場合に限るのだから、ピッタリ三十分で良かった訳だ。私には相手が女だと、どうしても義務感を覚えてしまう習慣が染み付いているらしい。
「でも、バスなんてあと三十分しないとやってこないよ」
女将が時刻表を見ながら言った。
「バスなんていいんだよ。お前が送ってやれよ」
主人が、何となく不機嫌そうに後ろから声をかけてくる。表に出ると、森川さんは煙草を吸いながら座っていたが、私を見た途端、慌てたように灰皿で揉み消した。少し不自然な動作にも思われたのだが、私も隣へ腰掛けて湯上がりの一服をしようと火をつけながら「バスはまだ?」と、尋ねた。
すると森川さんは、
「女の子が煙草を吸うのって嫌い?」
などと、関係ない返事をする。
「いや普通でしょ」
と、私はどうでもよいことについて答えた。
そうやって、暫く二人でバスを待っていたが、女将が三十分も待つというから面倒に思った私が、彼女の手をひいて車に乗ろうと誘うと、彼女も素直に応じたのだった。あとは、最初の依頼通りに駅まで送り届けて、「じゃあまた」と、挨拶をして別れただけだ。
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