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「タヌキは話が長くていけねぇや」
苛立っているのは小林も同じだったようで、ぽつりとそう漏らす。
それが聞き取れた署員はクスリと笑った。
「…私の話はこれぐらいで。福田君はまだ到着しないのかね?」
署長が小声で副署長に問い掛けると、副署長は縁のない眼鏡を慌ててずり上げながらドアの方に視線を送った。
「そ、そろそろ到着すると思うんですが…」
副署長の言葉に答えるかのように会議室のドアが開く。
「お待たせしてすみません、遅くなりました」
現れたのは爽やかで真面目そうな青年、彼が署長の言う福田という男である。
「これはこれは福田警視!お忙しいところご足労願いまして」
署長は手もみをしながら福田に近付く。
世間一般では警視正の署長も存在するのだが、坂西警察署の署長である小室は警視である。
故に現在福田と階級は同じであるが、キャリア組である福田は昇進が確定しているようなものだ。
近いうちに警視正になるであろう人物に尻尾を振るのは、世渡りをする上で仕方のない事なのかもしれない。
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