第5章 帰還と躊躇

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「―――――こんな時間からどこにお出かけかな、すり鉢姫」  オートロックの自動ガラスドアを出たホールに高めの声が響き、あたしは驚いて飛び上がった。 「わあ!?」  慌てて周りを見渡す。  管理人室の入口横の壁にもたれて、滝本がこちらを見ていた。 「―――――・・・」  あたしは一度口を開けて、だけど何も喋れずにまた口を閉じた。  口元にいつもの微笑を浮かべた滝本が、壁から離れてあたしに近づきながら言った。 「・・・まとめてはいるが、それなりの荷物だな。一体どこへいく?」  あたしはパッと走り出した。  今出てきたばかりのエントランスを逆走し、オートロックを開けてエレベーターホールに飛び込んだ。  慌てもせずに閉まりかけのガラスドアに片手を入れてあける滝本を視界の端で確認しながら、エレベーターの閉まるのボタンを連打する。  早く早く早く閉まってええええ~!!!  何とかヤツを締め出し動き出したエレベーターの中で、ドキドキとうるさい胸を押さえて座り込む。  ・・・びびびびび・・・びっくり、したああああ~!!  呼吸呼吸、酸欠で死んでしまう。  言い聞かせて深呼吸する。  何でここにいるの!?もう、行動が早い男だと知っていたから急いだのに、それでもやつの方が上だったか!  結局逃げ出す前に捕まってしまったー!!  置手紙もせず携帯にも応答しなかったのが、あたしの敗因か・・・。滝本が家を出た時にはそんな気配は微塵もなかったから、何かが起きたと思って確かめに来たのだろう。  あーあ・・・・。  反射的に逃げてしまったけど、今晩はきっともう逃げられないだろう。どうせ捕まるならマンションのホールなんかではなく自分の家がいい。  とんぼ返りになってしまった家の玄関を開けて、窓際のサイドランプだけをつけ、居間のソファーに荷物を放り投げる。  窓際のライトの小さな明りが部屋の中の全てのものに影を作り出した。  キャップを外して髪の毛に手を突っ込んで掻き回していたら、玄関が開く音がした。  見ていたら、ブルゾンを脱いで腕にかけた滝本がふらりと入って来た。 「・・・全く、ばたばたと忙しないお嬢さんだな、君は」
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